岩波文庫の『西遊記』を読んでいて、おや?と思ったことがある。三蔵法師の見た目を形容するのに、決まって色白で太っている(色が白くてふっくらした)、といういいかたをしているのだ。わたくしにとって三蔵法師のイメージは、虫プロダクション制作のテレビアニメ『悟空の大冒険』に登場する、細身でヒョロヒョロした「うらなり」のようなキャラクターのイメージが第一で、あるいは実際の玄奘三蔵がそうだったであろうような、筋骨たくましくて日焼けした姿か、とにかく色白で太っているというイメージはなかったので、意外であった。ちなみに、岩波文庫の『西遊記』では、一般的に三蔵法師よりも太っているイメージが強いと思われる猪八戒の見た目の特徴を描写するのに太っているという表現は使われず、口がとがっている、というようにいわれる。あと、耳がでかいとも。
しかし、少し考えれば、腑に落ちるところもある。
『西遊記』において、三蔵法師は、仏教の経典を求めて天竺(西天)へ向かう西天取経の旅の途中で、何度も妖怪や魔物に襲われる。三蔵法師に従う供の者たちのリーダーとして、法師を守るべく妖怪や魔物と戦う孫悟空の活躍が、物語の最大の要素である。襲う側は何のために襲うのかというと、これはもう決まっている。三蔵法師を食うためである。なぜ食おうとするかというと、高僧の肉を食えば不老長寿が得られることになっているからである。
たとえば、有名な「金角大王」と「銀角大王」は、三蔵法師一行の旅の行程のかなり早い段階で出てくる妖怪だが、金角が弟の銀角に向かってこう言うくだりがある。「…この唐の坊主ってえのはな、金蟬(こんぜん)長老が下界にくだり、十世にわたって修行したというすごいやつなんだ。おまけに、ただの一度も女を抱いたことがないそうだ。こんなやつの肉を食ったら、不老長寿まちがいねえぞ」(中野美代子訳『西遊記(四)』(岩波文庫)p86)
つまり、色白で太っている、というのは、食ったらうまそうだ、といっているのではないか。
猪八戒や沙悟浄も、三蔵と一緒に捕らえられて食われそうになることが何回かある。しかし、妖怪や魔物たちは孫悟空のことはまず食おうとしない。孫悟空は非常に手強いのでまず捕らえられることはない、捕らえることができたとしても、食うことなど考えず一刻も早くこの世から消してしまわなければ危険でしょうがない、といったところだろうが、また、見た目も食ったらまずそうに描かれているのである。
「チビ」で痩せている。旅の途中で出会った老人は三蔵に言う。「…あなたのあのお弟子ときたら、とんがった頬骨、へこんだほっぺたのサル顔にもってきて、雷公みたいな口にまっ赤な目ときておる。まるで癆痎病(ろうがいや)みの魔鬼みたいじゃが…」(中野美代子訳『西遊記(二)』(岩波文庫)p381)
このあたりの師弟二者のコントラストも面白い。
2026.5.6.